――昔々、あるところに二つの国がありました――


東の国はライサーク。
海と鉱山の恩恵を受けし、蒼鳥の神の治めし神国。
西の国はシグヌス。
大地と自然を根源にした、白鳥の女神の治めし神国。
自然の力に恵まれた両国は時を追うごとに栄えて行きました。
さて、ある時戦が起きました。
栄えた国にはありがちな事。他国の侵略を志すシグヌスの者が、ライサーク国に 攻め込んできたのです。
戦の女神を主とするシグヌスに、本当なら敵うわけはありませんでした。しかし ライサークの人々は王家ライズを中心に奮闘し、戦は平行線をたどります。
それをみかね、我が尊き男神、ハーク様はシグヌス国の女神スワンに和解を要求 する事にしました。
しかし、そこで予期せぬ事が起こりました。なんとそうして出逢った二神は互い に恋に落ちてしまったのです。
戦はまたたくまに終息し、神々は結納を交わし、夫婦の契りを結びました。
そして、この国は一つになったのです。
二神の間には子どもが生まれました。その子どもは銀色の髪、藤色の瞳を持ち、 それが今のウエストリア王家の先祖です。
そして今でもこのライサーク地方は……









「尊き我々の思主、蒼鳥の神ハークによって守られているのです。」

神々しい神殿に低い美声が響く。その言霊を受け取った観衆はわぁ、と歓声を上 げた。
彼らの視線の先は地面より高い位置にあり見上げる体勢の祭壇。そこにすらりと した肢体を真っ直ぐ伸ばし虚空を睨む一人の乙女。
「我が主、蒼鳥の神ハーク神に感謝の祈りを、多大なる敬意を。わたくし達はい つ何処で何をしていようとも、おんかたの加護を受け取っているのです。」
長い髪を振り乱し、彼女は胸に架けた祭祀用の短剣を民衆に晒す。磨き清められ た刃が薄暗いこの場の光源となり、乙女の姿を照らし出した。
女性にしてはかなり背丈があるようだ。くすんだ蒼色の外套に巻きスカートを纏 い、選ばれた巫女特有の袴を身につけている。身体には複数の金属製の装飾品が 飾られ、闇に輝いていた。しかし、何より乙女の姿を眩いばかりの物にしている のは、その銀色の髪だった。
「世で至極の神を祈り称える民に幸福を、暴力を嫌い癒しに真を求める全ての民 に幸福を!」
乙女は傲慢なほど太く低い声でこう締め括った。民達は互いに騒ぎ立て、神に捧 げる紫荊の花を祭壇に投げかかる。神殿を占める空気が熱くなり、皆口々に神の 姿を称えあう。
神殿に立つ乙女はそれを無表情に眺めながら刃を下ろした。元の様に首に吊るし 、踵を返す。その背中には今もなお、民衆の声が突き刺さっていた。耳飾りがた てるチャラチャラとした音と共に、うっとおしい。
「へヴン様、お疲れさまでした。とてもご立派でしたわ。」
ようやっと別の音が耳に入ったのは祭壇の奥に続く回路を大分進んだのちだった 。
「……そんな事はない。セルフィア、もう部屋に戻ってもいいか?」
乙女は先程よりもぞんざいな口調で声を掛けてきた巫女に返答した。セルフィア と呼ばれた巫女は不自然に細められた瞳を動かし、思案顔で答える。
「ええ……宜しいのではないでしょうか?お送りしましょうか?」
「いや、一人で平気だ。」
まるで子どもに対しての様に世話を焼くセルフィアに乙女はきっぱりと拒絶の意 を表す、そしてまた歩き出した。セルフィアは肩をすくめたが追ってはこなかっ た。
眩しい日差しが瞼焦がす様な外に出、乙女は自らの部屋に足を向けた。裸足であ るのにも構わず段を下り、整備されてもいない地面を平然と進む。
先に見えてきたちいさな白い石造りの建物が、乙女の住みかだ。 しっくいを塗り込んだ扉に彼女は手を伸ばす。すると扉は一人でに開いた。乙女 は一瞬澄んだ瞳をぱちくりとさせたが、構わず部屋に足を入れる。
そこには、先客がいた。
「もぉ〜!おっそい、へヴン。あたし達がどれくらい待ったと思ってるの?」
「仕方ないだろ、レイル。へヴンは仕事だったんだ、お前と違って忙しいの!」
「そんな事言って可愛い女の子ひっかけて遊んで来たんじゃないのかぁ〜?」
「……何だ、やっぱりお前達か。」
乙女――へヴンは虚空をさまよう三つの生き物を確認して溜息をついた。
レイル、タント、グリーズト。人間と同じかたちをとるがその大きさはへヴンの 掌に乗るほどで、背中に光瞬く羽をつけている。これらはこの小屋の裏にそびえ るレロンストレイト山に住む妖精達だ。
へヴンは隅に置かれた寝台に腰を下ろすと彼らに向き直った。
「ちゃんと仕事をしてきた、もう疲れたよ。」
妖精達は普通人間の目で捉えられないものだ。気配は感じても姿を垣間見る機会 はそうそうない。しかしへヴンは見ての通り、生まれつきこう言った不思議なも のを見、声を聞きとり会話する能力を身につけていた。
彼らは古くからのへヴンの友人だ。五つの頃ここに連れて来られてから見つけた 唯一の遊び相手である。だから彼らは今でも良くここに顔を出し、ひとしきり騒 いで帰って行く。いつもはそれが楽しみだが、今日は疲労に気分があまり優れな い。
へヴンは寝台にごろんと横になった。柔らかい布団の感触が肌に心地良かったが 、省みてみると布団が念入りに施された化粧に汚れている。
へヴンは唇をへの字に曲げた。よくよく自分の装備を省みれば、まったく昼寝に は適していない。へヴンは未だ中に漂っている妖精の一人に声をかけた。
「レイル、ちょっと。」
先程までかんしゃくを起こしていた唯一女性らしい外見を持った妖精が振り返る 。
「なに、たのみごと?」
少し嬉しそうな彼女の様子に苦笑しつつ、へヴンは迷った。でもここはいっそ全 てすっきりしてしまったほうが気分がいい。
「全部、化粧も飾りも取ってくれないか?」
へヴンはそれから外套を乱暴に脱ぎ捨て巻きスカートの紐もといてしまった。上 半身を晒した状態で自分の頬を手で包む。そして化粧も全て取れた事を確認し、 彼女は嬉しそうに微笑んだ。
「……へヴン、上、何か着ろよ。誰も来ないからって流石にまずいだろ。」
幸せに浸っていたへヴンの後ろで一番まともな性格をしている妖精タントが釘を さす。しかしへヴンはまったく意にも貸さなかった。
「いやだ、バークゥンサが来たら嫌でも着せられるんだ。今くらい何も着たくな い。」
そしてそのまま彼女は寝台に潜り込む。久しぶりに心地よい眠りにつける気がし た。



「……ヴン様、こら、きちんと聞いてますか!へヴン様!」
しかしながらへヴンが強制的に眠りから引き戻されたのは日も暮れぬ頃だった。
「…いいだろう、少しくらい。誰も来なかったし、見られてないよ。」
「私が申しているのはそういう事ではありません。少しは自覚を持って下さい! でないと…。」
「あ〜わかった、わかったから。」
聞き飽きた乳母の説教にへヴンは早々根を上げた。寝台から身体を起こすと布団 が上半身から滑り落ち、裸体が風に晒される。
驚いた事にそこから現れたのは広い肩に平な胸板だった。それは決して十五の乙 女が持つ身体ではない。
そう、へヴンは紛れもなく少年という人種だ。
「いいですか。あなたは仮にもこの神殿で最も格式高い巫女の剣姫グラジオラスなのですよ。」
初老の乳母バークゥンサは何度も聞いたおこごとを繰り返す。へヴンはそれにわ ざとらしく耳を塞いだ。その横で三人の妖精が口々に呟く。
「ん〜でもへヴンは男だから巫女って変よね。」
「じゃあ巫男?どう書くんだ?」
「一番の巫女が男じゃなぁ〜。」
バークゥンサに聴こえない事を良いことに言いたい放題の彼らに全くだ、とでも いいたげにへヴンは頷いた。
「仕方ないなぁ、だけど化粧のしすぎは肌に悪いらしいぞ。」
新しいマントを手に取りながらへヴンは唇を尖らせた。妖精達に手を借り、直ち に着替えはすむ。
その間床に落ちている衣類を拾い集めていたバークゥンサが腰を屈めながら鋭い 質問する。
「どなたがその様な事をおっしゃったのでしょうか?」
自分が詰まったのをへヴンは自覚した。しかしバークゥンサは抜け目なくへヴン を見つめているため、渋々とりあえず答える。
「…妖精達にだよ。」
これに反発したのはまさしく妖精達だった。
「えぇ!あたし達言ってないわよ。」
「責任転換か?ひどいじゃないかぁ〜。」
しかしバークゥンサには勿論聴こえない。バークゥンサはへヴンの言葉を信じ、 溜息をついた。
「……また、妖精ですか。へヴン様ももう十五におなり申し上げたのですからそ ろそろそう彼らとお遊びになるのはおやめなさいな。」
「でも他にする事がないんだ。」
へヴンは自分が投げやりに答えている事に気づいた。どうして今日はこんなに機 嫌が悪いのか自分でもわからない。
へヴンは無意識に瞳を伏せた。これは昔から思い悩む時の癖だと自覚している。
そしてそれを知っているバークゥンサは途端に優しい声になった。
「へヴン様…心苦しいのはよくわかります。しかし王様もあなたによかれと思っ て…。」
「いいんだ、バークゥンサ。わかっているから。」
へヴンは首を振った。そんな事を考えてもただ徒労なだけだ。
「本当に今日はもう寝るよ。お前達も気をつけて帰るんだぞ。」



乳母と妖精を追い出したものの、へヴンはなかなか寝つけなかった。そもそも備 え付けの寝台は最近では少々狭く、身体の節々が痛むせいも大きい。
それだけのせいとは言い切れなかった。久しぶり舞い戻った記憶がへヴンの周り に糸が張り巡らされ、動けない様にさせているのだ。
五つの頃、母親や姉から引き離された。それから十年の間ここに性を偽って、女 だけの環境に閉じ込められている。その間に姉や兄は成人し、城で輝かしき日々 を送っている事だろう。特に数年前、皇太子にとなった次兄は…。
「兄上…か。」
次兄、クロウドはへヴンにとってあまり思い出したくない兄だった。彼は母親が 違う自分を虐げ苛めるのを趣味としていた。へヴンは本来の母を早くに失い、ク ロウドの母親に育てられていた。本物の母など全くもって記憶していないへヴン が母親と呼ぶのも彼女だ。
(母上も姉上もお元気だろうか…あれ?)
へヴンは布団から身体を起こしてあたりを見回した。勿論夜半を回っている辺り は真っ暗だ。
だがへヴンは出窓の外に気配を見い出した。それに確信を持った瞬間、部屋から 飛び出す。
「レロンストレイト!」
虚空に向かって、へヴンは叫んだ。
もしこの現場を凡人が見掛けたなら奇人が一人で何叫んでいるんだと首を傾げる だろう、しかし。
「久しぶりだな、王子。」
尊大な、だが何処か気品のある声が返る。へヴンはその中でゆっくり振り返る人 物を見い出した。
長い〔のうど〕髪が散り、長身の男がへヴンに笑いかけていた。年齢は、よくわ からないが青年という形容がふさわしいだろう。そもそもこの男の容貌はへヴン が五つの頃からまったく変わってない。
「三ヶ月ぶりだよ。全く、ここの山の守り神だっていうのにどうしてこれほど長い間ここを空けるんだ?」
「私の治める山は何もこの山だけではない。王国全土…いやミマジナリ全体にそ れは広がっていると以前教えただろう。」
レロンストレィトと呼ばれた神は少し得意そうにへヴンを見下ろした。彼は長身 のへヴンよりも更に背が高い。そのわりに精神年齢はそれに伴っていなくちょっ とした事で自慢したがるのだ。
「おや、またしばらく見ないうちに背が伸びたな、まぁ私にはまだまだ到底追い つけないが。」
そう言って彼はぺしぺしへヴンの頭を遠慮なく叩く。あまりに呑気な神様にへヴ ンは思わず嘆息する。こっちが思い悩んでいるのになんて神だ、その前に人間と して彼ほど長身になるのは願い下げだ、 そう言ってやろうと思ったが……辞めた。
「どうした?今日はやけに元気がないじゃないか、第三王子。」
「……私を、まだ王子と呼ぶのはレロンくらいだな。」
そう言ってへヴンはうつむいた。自分の身分などとうに廃されたも同然なのに。
「ん?お前は真実王子だろう。まぁ今は女だが。」
「私はこの国に不必要な王子だ、私ほどその身分が合わない人間はいないだろう に。」
「いや…そんな事はないのだが。」
レロンストレィトはそう言って頭を掻いた。今日のへヴンがおかしい事に薄々気 がついてきたのだ。
「レロンに聞きたい事がある。これは…何だ?」
へヴンはマントを捲った。いつもは厳重に隠されている、少年らしい均整の取れ た腕。
何処かで不自然に風が鳴った。
「私の腕にはどうしてこんなものがある?」
へヴンの右ニの腕には物心ついた頃から、この印――ウエストリア王国の紋章が 刻まれていた。
生まれつきか人為的かすらわからない、ただどす黒くその部分だけ、蒼鳥と白鳥 が絡み合い、藤を垂れ流す印を彫り込んでいる。
レロンストレィトは前に佇む乙女――少年を凝視した。たった三ヶ月…その間に 、彼は一変してしまった様である。つまり…それは時が満ちたという事か。
脆弱な風の微妙な変化に神たる身には手に取るように伝わる。予感は、確信に変 わる。
「残念だが……もう語ってやる時間はないようだな」
「なっ……」
「最後の慈悲だ、お前を今すぐ神殿に飛ばしてやろう……大切なものを、護るん だぞ」
「レロン……」
へヴンの返答は神が呼び起こした風によって虚しく無散した。次に彼が瞳を開く と……そこは、見慣れてる神の祭壇の前だった。だが、何処かおかしい。
「これは…」
へヴンは辺りを振り返って言葉を無くした。確かにいつもと変わらぬ壮言な男神の像、磨きあげられた祭壇……。 違うのは、その下に散る赤いしずく。無惨に積み上げられた、犠牲者の肢体。
「……どうして!」
へヴンは心の底から問うた。今日は週末の礼拝の日。ここには夜になっても沢山 の信者が信仰を深めていたはず。
カタン、という微かな響きにへヴンは過敏に振り返った。そして、その影を認め 、走りよる。
「セルフィア!」
呼ばれた少女ははっと気づいたように辺りを見回す仕草をする。へヴンはその腕 を掴んで自分の存在を知らせた。
へヴンの胸の冷たい短剣に触れ、彼女は安心したように呟く。
「あぁ……へヴン様。ご無事で」
「それよりこれはどういう事なんだ」
思わずへヴンは強く聞き返す。彼女に聞いてもあまり参考にならない事を完全に 失念していたのだ。
「……私にも、よくは。でもどこぞの族がこの神殿を襲ってきたのは確かです。 私は目が見えぬため一番に逃がされ、今戻って来た次第ですわ。」
へヴンは唇を咬んだ。幸い障害を持つセルフィアは無事だったが、他は…。
(まず助けを呼ぼう。)
へヴンは決意するとセルフィアに尋ねた。
「少し歩けるだろうか、助けを呼びたいのだが…」
セルフィアは顔を上げて場面にそぐわない様な華やかな笑みを向けた。整った面 差しに真っ直ぐな髪がかかる。
「ええ、へヴン様がいかれる所なら何処までもついていきますわ。」



「ここから先に通す訳には行きません。」
「うるさい女だな…」
へヴン達が辿り着いた先は押問答の最中であっ た。二、三人の兵士らしき身なりの者に元は村人であろう、雇われた足軽兵が十 数人付き従っている様に見える。それらがよってたかって、一人の老いた女に下 劣な笑みを浮かべていた。
へヴンは居ても立ってもいられなくなった。その老女とは今のへヴンのたった一 人の家族である乳母のバークゥンサである。
へヴンは今にも蹴倒されそうな彼女に駆け寄り、前に立ちはだかる。セルフィア を置いてくるわけにはいかず彼女はしっかりと左腕に抱いた。
「へヴン様っ…」
「下がっていてくれ。」
乳母の気遣う様な台詞を打消し、へヴンは目前の兵士を睨み据えた。鋼色の鎧を 鈍く光らせる人物は、意外に若い。
「……なるほど。お前がここの巫女さんかい」
「お前らは誰だ」
「おっと、随分口が悪いなぁ。別嬪が台無しだぞ」
へヴンは黙って胸から短剣を抜き取った。剣の腕はそれなりに自身がある。鋒が 鞘にぶつかりカシャンと音をたてた。
「その上乱暴ときたか…仕方あるまい、正直に答えよう……この部屋の鍵は何処 だ。」
「それは答えになっていない。」
「そうか…厳しいな。お前らの面子のために言わずに済ませようと思ったのにな 。」
男は戯言を繰り返し格言をはぐらかそうとしているがへヴンとてそ れほど甘くはない。これでもヘヴンはこの神殿を守り抜く義務を持っているのだ。
男もそれを感じ取ったようで半場嫌がらせの様な恭しさで言葉を刻む。 「私たちは、聖なる男神の使者。この神殿の人間が神に反する行いを成している というので神の声を胸に制裁を与えにきた。」
「……何?」
「だから言わずに済まそうと思ったのだよ、ライズよりもフラットの血筋が正しい……ここは、フラットが治めるべきものなのだ。」
「戯言を!」
叫んだのはセルフィアだった。
「この神聖な神殿にて、よくもそんな口を利く。いつか…。」
「セルフィア、黙ってくれ。…それなら、こうする事にしよう。」
ヘヴンは天を仰いだ。
「その血…どちらが正統か……男神様に決めていただこう、わかるか?」
「……なるほど、そう来たか。言っておくが我の血は本物だぞ、お前は色から見るに王家筋か?そんな混血に負けはしない。」
ヘヴンは無言を貫き、その鍵のかかった扉の前に手を伸ばした。
「この部屋には鍵はない。力がある者にだけ開かれる者だ。私も開いた事はない……呪文はこうだ。」
「ヘヴン様、いけません!!」
後ろでバークゥンサが声を荒げたがヘヴンは彼女に薄く笑ってみせた。
「今はこうするよりほかない、このままでは全滅だ。」
「ですが…。」
更に言い募る彼女にセルフィアを預ける。彼女は何も言わなかった。バークゥンサは未だきつく唇を噛みしめている。ヘヴンははこの時はまだ、その危険性について全く無知だったのだ。
ヘヴンは男に向き直る。
「さあ、どちらが男神に受け入れられるか……ヘオカフェレイアス!!」
閃光が、散った。



フラットとは、このライサーク地方を治めるライズと同じ流れを持つ、まさしく正統な血である。三百年前の政争でこの地を追い出された彼らが生き永らえていたとは予想外だった。
ヘヴンもこの賭けに対して絶大な自信を持っていた訳ではない、確かに自分は混血、男神の血も女神の血も等しく受け継いでいるから。
だが……どうやら神は、自分を選んだ様だ。
(とうとう来たな…フェザラーの子よ、我が剣を授けよう、今日からお前は……終末の王子ぞ!!)
ヘヴンの答える前にそれは強烈な衝撃と、共に消えた。



神殿では死闘が繰り広げられる。
戦うのは、先ほどまで味方として支えあっていた、仲間の兵。
男神の諍いの神光を受けた彼らは我を忘れ、自らを滅ぼす。
そこに、ヘヴンの姿はなかった。
その脇に残されたセルフィアは、ひとり呟いた。
「目覚めた…王子が!!!」
彼女の大望が叶えられる時が、来た。



「清き男神の恩恵を受けし…第三王子ヘヴン。」
レロンストレイトは神殿の方角に向かって瞑目した。
「……健闘を、祈る。」

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